五月の新緑の中で
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


さても、今年もこの頃合いの到来で。
やれ、消費税高騰で買い物は控えたいだの、
やれ、気温の変動も激しいので 桜の季節がいきなり終わりの、
それとは別に、いつまでもインフルやはしかが流行していて、
花粉症なんだか風邪なんだか、妙に体調が悪いという声が聞かれのと、
微妙にパッとしないままの春がガサガサと通過する中で。

 新年度最初のお楽しみ、
 やって来ました、ゴールデン・ウィークっ!

 「でもまあ、私たちにはさして代わり映えはしないんですけどね。」
 「………。(頷・そうそう)」
 「今年のは特に、微妙に詰まんない日程だというか。」

世間様でも、今年は文字通りの飛び石だねぇなんてって、
真ん中に平日が3日も挟まるから、
まとめて1週間とかってのはなかなか無理と言われておいでだが、

 「…そういう方向じゃあなくてですね。」

もしょりと言葉を濁したのが、
つややかな金髪を、形のいい頭へきゅうと引っつめにして
ポニーテイルに結っておいでの、白百合様こと七郎次さんで。
大きなボウルの中、よいしょよいしょとこねていたクッキー生地が
何とか1つにまとまったのでと大理石の調理台へ移せば、

 「どうせ私たち、1日は催し物があります身ですし。
  連休になろうがなるまいが、あんまり関係ないって話で。」

長い長い麺棒を使い、
手慣れた様子で生地を均等な厚さに延ばしてゆくのが、
ひなげし様こと平八さん。
その傍らで、型抜き用のツールを用意していた、
軽やかなカールのかかった金髪を、こちら様はスカーフにくるんでおいでの
紅ばら様こと久蔵さんと来て。
某由緒正しき女学園が誇る、
美貌と人望 双方ともで学園中の人気を独占しておいでの“三華様”がた、
それは手際もいいままに、いかにもお嬢様らしい手作業で、
クッキーを大量にご用意なさっておいでであるらしく。
そういや、5月の1日といや、
こちらのお嬢様がたが通う女学園では、五月祭という催しが毎年開催されている。
そもそもの英国のお祭りを模しての、大地の女神を讃えるそれであり、
在校生たちによるお茶会やバザー、
ちょっとした寸劇や斉唱の発表なども用意されているけれど、
一番中心となる催しは、何と言っても“五月の女王”への戴冠式で。
催しの開催を告げる式のその最初、
学内から選ばれる“五月の女王”と、それへ付き添う隋臣役のお嬢さん二人とが、
伝統あるシックなデザインの白いドレスを身にまとい、
新緑の中をしずしずと行幸なさって、野外音楽堂までの道行きをこなし、
そこで学園長からティアラを冠されるという儀式があって。
この女学園へ通いたいと望む名家の女子たちが
実はこぞって密かに憧れる、それは栄誉ある大役が、
この“五月の女王”に選ばれることとされているほどに、
そりゃあ華々しい催しであるのだが、

 「何と言いますか、
  あんまりいい思い出がないんですがなんて言うと
  罰が当たりますかねぇ。」

さすが、皆様が憧れるお姉様がたという面目躍如か。
七郎次が女王様に、
平八と久蔵がその隋臣役にと選ばれたこともあるにはあったが。
それにまつわるややこしい事件や騒動が、
入れ替わり立ち代わりで幾つか起きたものだから。

 最初はティアラ目的の襲撃で。
 次は物凄い暑い中での写真撮影で。
 盗品グループの…。
 そうそう、蔵物倉庫になってたビルにからんでた、
 バンド練習の妨害の一件もあったねぇ。
 他にも、逆上れば関わりありっていうよな連中にからまれたりして。

しかもしかも、ここが問題で、
ごくごく普通の女の子と違い、やたら勘がよかったのが災いし。
気がつきゃ“自分のことは自分で”と、(おいおい)
ホウキや警棒、ぶん回すよになったお嬢様たちなのでもあって。
言ってみりゃあ、この五月祭が契機になって、
奇禍が降りかかった場合の姿勢が定まり、
彼女らの尋常ならざるスキルとやらも
ガンガンと上がり始めたようなものなのではないかいなと。
そんな風に思えてならないお嬢様たちらしいのだが、

 『…普通のお嬢様なら、
  最初の騒動で“助けてぇ”とか弱く震えてそれっきりだ。』

 『さよう。
  二つ目以降のあれこれは、
  見ぬ振りも出来たものや、大人へ振っていいものばかり。』

 『それにそれ以外のすったもんだは、
  自分から乗り出したものが大半だしのう。』

保護者の皆様にしてみれば、
大人しくしていなかった事態悪化を指して、
そうそう“私のせいじゃないもん”で通されても困るようであり。

 「…まあ、今年の五月祭は、
  私たちには逆に良い日取りと言えますかね。」

あ、白百合さんたら誤魔化したな。(苦笑)
何がどう“良い日取り”かといえば、
会社勤めしている身ではないので、
1日こそ催し当日として登校し、翌日は後片付けに勤しむとしても、
どちらも授業は無しという日程。
直前の四月末日も準備に使われるので、
平日はまるっと華やかな祭典のために消費されるその上、
後半の連休に食い込むこともないため、
そちらもまるっと楽しめると来て、

 「ヘイさんは子供の日フェアですか?」
 「ええ。朝から餅つき大会ですよvv」
 「久蔵殿は、湖畔の別荘でしょか。」
 「……。(頷)」

最終日はバレエ団の夏の公演に向けての顔合わせとかあるらしいので、
あんまり遠出は出来なくてと言うけれど。

 「でも…。/////」
 「あ、さては兵庫さんも同行しますね?」

色白な頬を、慣れた間柄でなきゃ判らないだろうほど仄かに染めたのへ。
判るからこそ“このこのこのぉ”と平八が律義に冷やかして、
もっと喜べ、素直じゃないなあvvとばかり、
盛大に煽って差し上げるのも彼女らならではな友情か。
そんな二人をよそに、

 「ま、そういうお楽しみでもないと、
  やってられない部分もありますしね。」

5枚花びらのお花を
“ぽぽぽぽんっ”とそりゃあなめらかに型抜きしつつ、
淡々とした声を出した白百合様の場合。
あらまあ、もしかして…またぞろ
誰か様はGWの間じゅう、終日ずっとお忙しいものか。
でもまあ、敵は警視庁の敏腕警部補で、
先日 某国の大統領が来日したおりも、
捜査担当の刑事までもが警備の補充へ回された中、

 “やっぱりというか、
  関係なし扱いで 専従捜査に当たってたというお話ですしねぇ。”

そこまでの話となると、結構 極秘情報だろうに、
あっさり入手しているひなげしさんも、相変わらずの辣腕であらせられ。
国賓という対象でさえ後回しにしていいよと、
そっちを優先してねという対処を受けるような、
一体どんな案件を捜査中なのやらまでは判らないものの、
そうまでお忙しい警部補は、
その分お元気ではあるらしいとだけ判れば十分ということか。
黙々とクッキー作りに励む白百合さんへ、

 「……。」
 「ええ、そうですね。」

あとの二人も頷き合って、
今は五月祭のことへだけ集中しましょと意を決したのでありました。





     ◇◇◇



新しい春の到来を祝い、
大地と豊饒の女神へ、今年もよき収穫よき恵みがあらんことをと
歌って踊って讃え祀るのが“五月祭”の本旨だが、
さすがにこちらの女学園では、そういう方面の祈りは方向が違うので扱われない。
ミッション校ゆえ、そもそもはキリスト教の“復活祭”を取り入れたかったが、
日本の歳時記事情に余りにも咬み合わなかったため断念したという説もあり、
そんな迷走が辿り着いたのが、
瑞々しい新緑の中、純白のドレスに身を包んだ選ばれし美少女が、
しずしずとあるいは神々しくも歩みを進め、
他の生徒らが憧れの眼差しで見守る中、
それは綺羅らかなティアラを戴く儀式を執り行うという
華麗にして高潔な、それはそれは厳かな構図だったようで。
その主役となる“五月の女王”は春先からの一斉投票で選ばれるため、
となると、名前と顔がせめて一致する人でないと票も集まらず、
結果、二年生からの選出となるのが常であり。
一体何度目の二年生なのやら(げほごほ…)、
初年度で既に大役を務めている三華様がたには、
一人に一度しか機会はなしというルールにより、もはやお声も掛からず…の筈が、

 「きゃあ、おいでになられたわvv」
 「待って待って、主役は○○様なのよ。」
 「そうよ、はしたない声を上げてはなりません。」

例祭のミサや始業式などを行う聖堂の正面、
両開きの大きな扉が執行委員たちの手で開け放たれて、
数段ほどの階(きざはし)の上、
ちょっとした檀のようになっている広いポーチへ、
今年の投票で選ばれた女王が現れる。
デザインは同じながら、毎年新調される純白のドレスに、
オーガンジーレースの華やかなベールを
大人みたいにアップに結い上げた髪にかづきのようにおおいかけ。
長手套をした手にブーケを持っておれば、
そのまま花嫁と言っても通りそうないで立ちながら、
ここは女学園なので、婿殿もいなければ花嫁の父親もなく。
では、誰がエスコートをするのかと言えば、

 「………。」
 「あ…。////////」

そちらもかっちりとした いわゆる式服姿。
詰め襟タイプのウエストカットの上着は
華麗な刺繍がほどこされた厚絹のサテン製で、
肩章から胸章に掛けて、緩いループを描いて垂らされた組み紐が飾り。
それへのシャープな印象のパンツとブーツという取り合わせは、
中世のフランス辺りの軍服を思わせる仕様。
そんな芝居がかったいで立ちが、
なのに、下手なコスプレや舞台衣装以上に違和感なくマッチする、
金髪白面の美少年が現れて、
周辺を取り巻くようにしていた観衆が きゃあという黄色い声を上げかかる。
軽やかなくせのある金髪には、
本来ならば帽子をかぶるのが正式な装備だが、
そんなことをすると せっかくの麗しいお顔が見えなくなるからと、
反対意見が多く出て。
何も正統なところへこだわることもなかろうと却下されたお陰様、
紅色の吊り上がった双眸が、それは凛々しく力んでおいでの雄々しさ、
素晴らしく映えさせての麗しく。
微妙に冷たい印象の、されどそこがまた
誰にも媚びぬ毅然とした姿勢となってたまらなくお素敵なお姉様、
紅ばらの君がエスコートをし、その後から二人の乙女が続くという格好に、

 『もはや確定しちゃいましたものねぇ。』

またもやお達しが飛んで来たとあって、
平八や七郎次が苦笑したのは、薄々予想があってのことで。
女王や隋臣役と同じで、一回だけじゃあなかったかと、
今年もという打診があったおりは、ちょっぴり憤慨しかかったものの。
他に頼もしい騎士に見合う女子はおらずで、
女王の身を護りし姿も期待している人がそれはいっぱいいるのですと、

 『まさか双葉さんが交渉役に引っ張り出されちゃあねぇvv』
 『敵さんもやるやる♪』

一子さん同様に、
久蔵さんの 実はお気に入りの妹君でもある一年生のお嬢さん。
ゆるやかで優美な癖のある、しっとりした黒髪もキュートながら、
ちょみっと内気な引っ込み思案さんが、
私も拝見したいですと、えいっと頑張って説き伏せに来たそうで。
誰の発案かは不明ながら、これに逆らえる久蔵さんではなかったらしく。
今年も已なく、凛々しい騎士殿を演じておいで。
日頃からバレエで鍛え、時々は乱闘で強かさを増させた肢体は、
すらりとしつつも柔軟強靭で、
慣れないヒールによろめき掛かる女王様を、
片手とそれから、さりげなく寄り添うた体の側線で難無く支え、
ゴールにあたる野外音楽堂までの道程、
ゆっくりと歩き始める一行で。
校舎に沿った遊歩道を進み、アールデコ調の温室を横手に見つつ、
裏庭に当たる位置にある石作りの円形講堂、
マロニエの蔓が周縁の壁に這う野外音楽堂までをしずしずと進む彼女らを、
五月の明るい陽が照らし、
若葉がたわわにつきつつある樹木が、その柔らかな梢を揺らしては、
優雅な白いドレスをその緑で映えさせる。

 「まあまあまあ、なんてお素敵なvv」
 「○○様もそれは優雅な方ですから、可憐な女王様にぴったりで。」
 「ああでも、やっぱり、三木様の凛々しさが眩しくてvv」
 「それを言ったらキリがありませんわ、皆様。」

鋭角な美貌と鋭利な痩躯。
でもでも 実は女性だということで、
ちょっとした所作に嫋やかさが仄見えて、そこがまたキュンとしてしまうと。
日頃から傾倒を競い合うシンパシーの顔触れのみならず、

 「……。/////////」
 「あの方が紅ばら様?//////」

あまり先輩がたを知らなかった新入生のお嬢さんたちまでもが、
その胸を撃ち抜かれてか、ただただ頬を染めて見入る始末。
ウツギの白い花房が揺れる小道を通過すれば、
会場の中央の道へ出るというところまで至ったそのときだ。

  ざわ…っ、と

今日は朝から風が強くて、
なので、大きな木葉擦れの音が立ったのへ、
周囲の樹木がやはり風になぶられたものだと感じて、誰も気にかけなかった。
木洩れ陽がゆさりと揺れて、
対面側にいた面々が不意な目映さにきゃっと声を上げる。
壇上までの通り道へと敷かれた赤い絨毯が見えて来て、
あとちょっとかと気を引き締めかけた久蔵が、

 「…っ。」

ハッとすると足を止め、女王役の少女の前へと立ちはだかる。
腰に提げていたサーベルは、だが、ただの飾りで
模造刀どころじゃあない竹光と知っていたため、
手を掛けもせずに、まずはただ腕を差し渡して見せ。
そんな彼女の様子に、

 「…っ。」

こちら、先に会場に入っていた平八も周囲を見回し、
耳にイヤホンを差してたスマホだけでは足りないと、
小型タブレットを制服の裾から引っ張り出して警備システムを展開させれば、

 “……まずい。”

裏門側の塀の上、
駐車場の傍であり警備員が常時詰めてる位置の防犯カメラが、
静止映像を映しているのに気づけなかったようで。
こんな初歩の手に引っ掛かるなんてぇと歯軋りしつつも、

 「ごめんあそばせっ!」

その手を高々と、天へ届けと掲げるように振り上げて、
空高く放り投げた何かがあって。
ぼとんと落ちたところで幾つかに分かれた 灰色っぽいそれらは、
そのままカーペットの上をさかさかと駆け回り。
仔猫だかネズミだかという大きさの何物か、
正体が判らないだけに、微妙な恐れを振り撒いたか、

 「きゃっ。」
 「え? なになに?」

まだ開催の辞までは時間もあるため、
他の場所への準備や設営にも人は割かれているので、
此処へはそれほどの数が詰め掛けていた訳でなし。
順路の左右に2列ほどになって並んでいたお嬢様たちが、
何だ何だと慌てて後じさったことで開けた空間へ飛び出すと、
あとちょこっと距離があった、女王の元へと駆け出している。
久蔵は恐らく、女王役の少女を庇うことを優先することだろうから、
いつもの特殊警棒を繰り出せない。

 “防犯カメラに細工するなんて、周到な奴に違いないから。”

しかも、今朝までは正常に機能していたとチェック済み。
よってこの催しに照準を合わせた輩の仕業であり、

 “誰にどんな恨みがあるのか。
  ただの嫌がらせにしちゃあ大胆なっ!”

何が起こらんとしているのか、まだ全く判っていない学友たちには、
久蔵がいきなり立ち止まり、妙な身構えをしたくらいにしか見えてはいない。
何か寸劇の予定でもあったのかと、期待しかかるクチもいるようで。
何ならそっちへ誤魔化そうかと思った平八だったが、

 「…あっ。」

今はただ青い葉が茂るのみのサザンカの生け垣を、
無理からねじ伏せる格好で、
強引に飛び出して来た人影がある。
後に判明したのだが、
この女学園の行事に精通していたほどの追っかけ男子で。
あまりに熱烈な傾倒がどこでどう歪んだものか、
登下校するお嬢様たちの通り道に潜み、
いつか飛び掛かってキャアキャアと怯えさせてやると仲間内で公言していたり、
警備用の監視カメラが幾つあるのか
全部知ってるのは俺くらいのもんだと嘯いていたりと、
ここ最近、結構危ない言動をしだしていたそうで。

 『…なんですか? その“追っかけ”ってのは。』
 『サイトとかがあるワケじゃないんですよ。
  例の“らいん”で盛り上がってたグループみたいで。』

AK●以上にご近所のアイドルとか思ってたらしいですが、
アイドル以前に 一般人だっつうのと、
皆で呆れた後日談はさておいて。

 「女王が聞いて呆れらぁっ! もっと美人がいるだろよっ!」

何とも失敬な言いようをし、
突進して来つつ その手に掴んでた何かを投げ付けようとした暴漢。
いつものノリなら、
こちらもその手へシャコンと警棒を振り出し、
あっさり伸してるレベルの相手。
だがだが、

 「きゃあっ。」

向背へと庇われていた女王役の彼女が、
よほどに怖かったか、甲高い悲鳴を上げたのへ、
久蔵の反射も一瞬鈍る。
正論を言えば、久蔵もまた此処の生徒であり、
何も本当にその身を呈して護衛をする義理はない。
騎士の格好も言わば“ごっこ”にすぎず、
自分の身を守ることへだけ徹して良いのだが、
いつもの活躍への反射反応がついつい刺激されたため、

 「…っ!」

思わず四肢を広げる格好になって、
女王役の乙女を庇ってしまい、そこへ乱入者が突っ込んで来かけたが、

 「こんの、大たわけがっっ!」

ぶんっと、風を切る音がして、
何か煌くものが一陣の疾風となって宙を切り裂く。
誰もが凍りついていた危険な狭間へ飛び込んだ人影は、
剣に見えたが実はそのくらいの長さのポールをぶん回し、
暴漢の振りかぶられた手をしたたかに薙ぎ払っていて。

 「ぐあっ!」

そこも計算したのかどうか、
ポールの切っ先、頂点で当たった相手の手の中で、
その何かがパンと弾けて。
やや後方へと反らせていた位置のせいで、
当人にのみばしゃりと掛かったは、
どうやら真っ黒な墨汁。
主役たちにしずくでも掛かってはいけないと、
ポールを振るった奇跡の剣士が、
ついでに御々脚を振り上げ、そ〜れと腹を蹴り押せば、
後方へ“おとと…”とたたらを踏んだ乱入者であり。
何のと踏ん張って見せたのへ、
いやだ持ち直したわと周囲から悲鳴が上がったが、

 「いい加減、諦めるのだな。」

か弱い悲鳴しか聞こえなんだ空間へ、
厳かな神の声のように重々しい男性の声がそうと降りかかり。
恰幅のいい肢体が、足元を鋭く払われて、
水を満杯にした樽が転げたような、ずしんという音と共に、
その場で羽交い締めにされての、
地へ顔を伏せるよに押し倒されている他愛なさよ。
そうまでの見事な捕り物を演じたは、

 「…勘兵衛様。」

在校生に令嬢がおいでだという長官の付き添い、
来賓席にいたはずの、蓬髪を背中まで垂らした辣腕警部補様であり。
そして、そんな彼へホッとしたような声を掛けたのは、
守り一辺倒に立った久蔵を補佐するべく、
そちらは馴染みの長柄をぶん回し、
無垢な少女らを墨で穢そうとした不埒者を叩きのめした新たな騎士殿こと、

 「…シチさん?」

何であなたまでそんな格好してますかと。
話を聞いてなかったらしい平八が唖然として見せる。
彼女もまた、久蔵と同じような騎士のコスプレに身を包んでおり、

 『お茶会の支度があるのでって言ってませんでしたか?』

自己流の警備であちこちへ眸を光らせていた平八とは
行動を共にしなかった白百合様が、まさかそんな格好をしていようとは。

 『だって久蔵殿が、』

自分ばっかり何度も面倒なカッコをさせられるのは不公平だと言い出して、
シチもこれを着てくれたら、当日は大人しくお務めに励む…だなんて、
いつの間に用意したのか、自分とお揃いの衣装を差し出したらしく。

 『そんな可愛いこと言われちゃったら、ねぇ?////////』
 『何が、ねぇですか。』

こたびばかりは間に合わないかと冷や冷やしましたと、
そうであっても一生徒の彼女には、これまた責任はないというに。
胸元を押さえてほおと安堵の吐息をついた平八さんだったそうで。
何が何やら、よく判らないけれど、直接の危険は去ったらしいのでと、
凛々しい活躍をなさった三華様がたへ、
きゃあvvと黄色い声を上げたお嬢様たちの無邪気さが唯一の救い。
そんな微妙な女王様襲撃事件でございました。





    〜Fine〜  14.04.27.


  *ああもうそんな季節なのねという、
   五月の初めでございまず。
   今回、シチちゃんは
   勘兵衛様が来ると とある筋から訊いてたようで。
   なればこそのお茶目な参加だったのかも知れません。
   きっと、誰かさんが凄まじく頑張って、
   直前まで関わってた事件を、
   これへ間に合うタイミングで解決させたんでしょうね。
   お疲れさまでした。(苦笑)

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